作者の紹介 松下 明
生年月日:昭和25年5月24日
「窯にひかれて」
30年ほど前、私は、すさみ町の公民館の陶芸教室に入れていただく事になりました。
初めて体験する陶芸は、とても不思議で、興味あるものでした。
しかし、2年ほどして講師の串本町の矢倉実先生は病に倒れてしまいました。亡くなるしばらく前に、先生のお見舞いに行ったところ、先生は、「焼き物は、薪で焼くのが面白いで。…」と衰弱した体で教えて下さいました。
私は家に帰ってから、窯について考えました。
土の練り方、形の成形の仕方も解らないのに窯を作ろうと思ったのです。その頃は聞く人もいなかったので、色々な本を読みました。
早速、小屋作りからはじめ、耐火レンガと耐火モルタルを買ってきて窯を作り始めました。
その窯は、単独型で両側に焚き口のある、倒煙式の小さな窯でした。やっと完成して、陶芸の材料屋さんに見てもらいますと、笑われてしまいました。少し火を入れてみると煙突が粉々に割れてしまいました。実は煙突に土管を使っていたのでした。
このような試行錯誤を繰り返しているときに、南部川村の西村修次先生に出会いました。先生は矢倉先生の後を受けて陶芸教室の指導に来られたのです。先生は陶芸家の先生のもとで、勉強されていましたので、焼き物に関して知識を豊富におもちでした。私にとりまして、作りかけの窯の改良を指導して頂けましたことは、とてもラッキーな事でした。
それからも更に試行錯誤は続きました。平成7年にすさみ町五郎水の地に登り窯を築くまで、7年間その小さな窯でよく焼かせてもらいました。失望や落胆もありましたが、それ以上に喜びを感じさせてもらいました。
私の作陶は、窯に引っ張ってもらったと思っています。先に窯を作ることによって作陶の励みにもなりました。自分を、焼き物を作らなければならない状況に追い込んでいったのかもしれません。
登り窯を作って以来、更に大きな力で引っ張られているような気がします。
ここから更にパワーアップをして、五郎水窯を「熊野」の地に根付かせていきたいと思っています。